福岡家庭裁判所 昭和32年(家イ)99号 審判 1957年4月05日
申立人 山本ヒロ子(仮名)
相手方 山本知雄(仮名)
主文
本件調停終了に至るまで
相手方は○○○鉄道株式会社○○○営業所を退職したるに依り右会社より相手方に支給される退職金を受領してはならない。
(家庭審判官 大津浅吉)
正当な理由なくして右命令に従わないときは五千円以下の過料に処せられる。
事件の実情(申立実情)
1 申立人は相手方と昭和二十五年三月○日婚姻したが一子も儲けていない。
2 相手方は生来賭事を好み競輪競馬等に凝り動務先○○○鉄道株式会社○○○営業所車輛課より受給する給与の大半をこれに費消し申立人に対しては生活費として僅か一万二千円を毎月手交する有様で申立人としてはそれでは生活が出来ないので食堂を経営して生計をたててきた。
3 相手方は昭和三十二年二月○日頃より外泊が頻繁となり申立人が詰問したところ競輪に行つて旅館に泊つたというので申立人もこれを信じていた。然し相手方が同年三月○○日頃より相手方現住所に於いて他の女性と同棲するに至り情婦のあることを知つた。その後相手方は全く家庭に寄りつかなかつたが同年三月○○○日申立人方に来て前非を悔い謝罪しそのためには情婦と別れるからその手切金四万円を都合して呉れと申出た。
申立人は相手方の改悔を信じ右金四万円の金子を苦面して相手方に渡し情婦と手を切り帰宅することを希つた。
4 ところが相手方は情婦に手切金を渡すどころかそのまま情婦のもとに同棲を続けて帰宅しない。
5 申立人は相手方の反省と改悔を希つて多額の金銭を借金してまで申立人と相手方の生活の為に尽したにも拘らず前記の如き全く常軌を逸した相手方の行為は許せない、又今後の婚姻生活にも望みがもてないので本件申立に及ぶ。
尚相手方は前記勤務先を退職し同社より得る退職金が唯一の資産であるがその退職金も近日中に下る予定と聞いているのでもしこれが相手方に受給されたならば申立人としては何等なすところがなくなるので調停前の処置として本件調停が終了する迄の間右退職金の受領を禁じてもらいたい。